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新しい二次創作のカタチ、AMVの魅力とは?

Youtube上で独自の進化を遂げているAMV。AMVの魅力の真髄を伝えるために、AMVが辿ってきた進化を、その進化に影響を与えたであろうhiphop的文脈から紹介する。そこに存在しているのはただの二次創作ではない。作品が誕生しカルチャーが生まれはじめているのだから。

※この記事は、動画を見ながら読んでください。そうすると、とても楽しめます。

目次

 
Dowsing by tojork

AMVとは

AMVとはその名の通り、Anime Music Videoの略だ。アニメの映像を編集し、音楽に載せて動画を作るという手法である。日本ではMADという呼び方がお馴染みかもしれない。ただ、現在のAMVは、いわゆるMADの域には収まりきらない。最近のAMVには、もはやアニメミュージックビデオという名前では片付けられない新しいうねりがあるからだ。そしてこの新しいうねりを解説するにあたって、AMVとhiphopの結びつきというのは極めて重要な要素である。

様々な要素を複合させながら進化してきたAMVだが、今回はその歴史をhiphop的な文脈から再構成し、その魅力を体現するAMV作品を紹介する。

AMVの進化の過程

AMVの誕生

AMVは、元々はアニメファンによる二次創作として誕生した。当初、作品群の多くは、アニメの主題歌やアニメに関連する楽曲に、編集したアニメの映像を載せるというものであった。誕生当初のAMVは、コンセプトビデオの域を出ないものであったといえる。

以下の動画は2015年時点でののMADである。

方向性を大きく変えるhiphopとの出会い

2016年から2017年にかけて、SoundCloudの隆盛と共に爆発エネルギーを持ったナードなラッパーたちが一気に世に出ることになる。そして、そんな彼らがアイコンに用いたものの一つが大人気アニメ『NARUTO』だった。

xxxtentacionがアニメ『NARUTO』の悪役である「暁」の姿をモチーフにして登場して以降、それに呼応するように2016年から2017年にかけてxxxtentacionやsuicideboysらの曲と、アニメのバトルシーンをかけ合わせたAMVが一気に増え始める。

この時期にhiphopをベースとしたAMV makerたちが増える。彼らのルーツを探れば、元はhiphopとバスケを組みわせた動画を作っていたり、スケートボードのビデオを撮影していたりとhiphopカルチャーと結びつきが強い人たちが一気にAMV界隈に参入を始めたことが分かる。

hiphopが好きな奴らが、一気にAMVの世界へと足を踏み入れていくようになったのだ。

hiphopと融合したAMV。先ほどのMADを見て頂けた方は分かると思うが、同じ動画素材で構成されたものだ。クオリティの圧倒的上昇を感じる。

トラップとの融合がもたらした技術的な進化

トラップ(Trap)とAMVが融合し、hiphop好きがAMVを作り始めたことでAMVに一つの革命が起きた。hiphopのドラム、ラップという激しいリズムの転調とアニメ独特のカット割りを融合させるという手法が発達したのだ。

それまでも曲と動画のリズムをリンクさせる動画は存在したが、トラップ×AMVの組み合わせが広まったことで、音楽と映像をどうやってリンクさせるかという評価軸がAMVの中に生まれた。

このタイミングで、AMVはコンセプトビデオの域を脱出しvideoとして楽しめるものになっていった。

lo-fiカルチャーとの融合

hiphopとの出会いを経て、一皮剥けたAMV。そして時を同じくして、2017年に入るとYoutube上に多くのlo-fiチャンネルが立ち上がり始める。そして、lo-fi hiphop チャンネルが日本のアニメーションと融合したように、lo-fiカルチャーとAMVもまたその結びつきを強めていく。

元々、samurai hacksやanimevibe, aviencloudといったYoutubeチャンネルでは、アニメ画像を背景にlo-fi hiphopやelectoronicの楽曲を紹介することが2014年以前から行われていた。

これらのチャンネルも、2016年頃からAMV制作に着手し始めるが、同時に数多く現れるのが、”promote music” 好きな音楽を広めるためにAMVを作り始めるエディターたちだ。彼らは、自分たちが好きな音楽を知ってもらうためにAMVを作るようになる。

元々、「アニメ好きがそのアニメの良さを表現する」ものとして生まれたAMVであったが、「好きな音楽の良さを表現する」ために作るAMVが生まれるようになる。そして同時に、用いられるアニメや、使われるシーンも大幅に拡大されていった。

AMVが持ち始めるストーリー

アニメの戦闘シーンの勢いと曲の勢いを融合したものから、曲の魅力を引き出すために作られるようになっていくAMV。2018年前後から、一つのアニメだけをモチーフにするのではなく、曲のイメージに合った映像を複数のアニメから引っ張って作成されるAMVが生まれ始める。

こうなった時にAMVは、それはもうアニメの魅力を表現するものを超越し、音楽を紹介するだけでなく、ビデオメーカーたちが曲に抱くイメージや世界観を表現する場所となった。どのアニメを選ぶのか、アニメのどの部分を持ってくるか、どのようにしてそれらを映像とリンクさせるか。動画の技術に加えて、彼らのキュレーション能力が試される時代へと突入した。

脱AMVへ

こうなったらもうAMVは止められない。ビデオメーカーたちの欲望も止まらない。彼らはアニメだけでなく、映画などの三次元の映像を取り入れるようになる。ただそこでも、AMVが生んできた映像と音楽のリンク、そしてどのような世界観を表現するか、というルールは保たれている。

AMVが秘める可能性

本来アニメの良さを表現するツールだったAMV。それが音楽を表現するツールとなり、今やビデオメーカーたちが抱く世界観を見せるものとなった。そして、優れたビデオメーカーたちの多くは、Ko-fiで個人的な支援を求めたり、自らブランドを展開したり、レーベルとして活動するようになったりと、新たなコミュニティをインターネット上で形成し始めている。本来、ファンコミュニティにおける二次創作に過ぎなかったAMVが、自身の世界観を伝えるツールにまで成長し、それらの集積がブランドとして機能するようになっているのだ。

AMVに動画編集技術と、キュレーションのセンスという2つの評価軸が生まれた時に、AMVは自分自身を表現する一つのツールにまでに至ったということだ。技術とキュレーションによって世界観を見せるという手法には新しさしか感じないし、興奮しかない。

私が、AMVには新しいうねりがあると言った意味を理解して頂けただろうか。

そしてこうした世界観の再構築に、かつてのhiphopカルチャーが歩んできた道のりを想起するのは私だけだろうか。

どうしてAMVが面白いのか

最後に、どうしてAMVが面白いのか、私がここまでAMVにハマった理由を話したい。

①五感への刺激

ドラムパターンやラップが映像とどのようにリンクされるのかを予想して見る。自分が気持ち良いと感じるタイミングと映像のカット割りがリンクした時に、頭からドーパミンが溢れるだろう。また私たちの予想を裏切って少しズラしてきたり、キックでカット割りをしていたのが急にスネアやベースでカット割りに転換したりした時とかは、テンションが上がりまくる。

②想像力を刺激される。

私が感じるAMVの面白さの原点となるのが、この動画だ。

その原点の一つにアニメのオープニングやエンディング映像がある。OPやEDの映像が好きになる経験は珍しくないと思う。キャラクターが全員集合し、アニメの中の印象的なシーンだったり、この先どうなるかを予感させるシーンだったりが散りばめられている。そうすることで、背景ににある大きな世界や大きな物語に対する想像力がめちゃくちゃ掻き立ててられるのだ。

 同様に、AMVはアニメを編集して作られている。それは膨大な数の話数の中から厳選したシーンを編集して作られているから、そこにどんなストーリーがあるのかを見る側は想像させられる。背景に存在している大きな世界を想像したり、思いを巡らせたり出来る。膨大な情報の中から抽出される一部の情報は、背景に作り込まれた世界観があればあるほどそれらに思いを巡らすことができる。そうした想像力の刺激は何物にも代え難い。

五感を研ぎ澄ませながら、頭の中にある記憶の断片をすごいスピードで集めて想像力を働かせる。これは人間が味わえる最高の幸せの一つなんじゃないかと思う。

AMVの進化は止まらない

そうこう言ってるだけでも始まらない。新しいカルチャーの成長を見ているだけでは気が済まない。このAMVカルチャーの魅力は既存のアニメを使って作成するという参入障壁の低さにもあるからだ。

最後に私の仲間たちが作ったAMVを紹介する。このカルチャーが進化を続けることを願って。

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