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湘南の生きる伝説”CHATTY CHATTY”

神奈川の南、湘南は「テクニカルスケートの総本山」と呼ばれ、スケートボード界隈では特別な意味を持つ。いつの時代も驚異的な上手さの若手を排出し続ける湘南だが、その歴史を遡るとCHATTY CHATTYという伝説のクルーの存在が大きな影を落としている。今回はそんなCHATTY CHATTYが伝説たる所以を語る。

目次

illustration by エノシマナオミ

湘南のローカルビデオ”CHATTY CHATTY”

CHATTY CHATTYは湘南を拠点に活動するスケートボードクルー。だが、それは彼らの呼び名であると同時に彼らのビデオ作品の名前でもある。最初はただの「ローカルビデオ」だったCHATTY CHATTYだが、今では多くのスケーターを虜にし、全国にその名を轟かせている。そんなCHATTY CHATTYの伝説たる所以、「他とは違う」ところを覗いてみよう。

王道なストリートスタイル

CHATTY CHATTYの魅力は何と言っても王道を行くストリートスケートだろう。全盛期の2000年代前半ということもあり、当時のCHATTY CHATTYの服装はオーバーサイズで狙うトリックは基本的に回し、マニュアル、ステア、レッジというドストリートスタイル。現在流行っているノーコンプライやウォール系などの小洒落たトリックはしない。そのシンプルかつテクニカルな滑りは見る者を魅了する。

下の動画はCHATTYメンバーである滑れるフィルマー、通称バネちゃん(赤羽賢)のYouTubeチャンネルに上がっているCALL OF WEDNESDAYというシリーズ動画。『CHATTY CHATTY』シリーズの作品以外でも同じメンツの滑りが見られるのがCHATTY CHATTYの特徴。

ちなみに赤羽賢もフィルマーでありながら大きいステアをノーリーヒールで飛ぶほどの実力者。

多方面で活躍するスキルフルなメンバー

CHATTY CHATTYのメンバーは全員に持ち味がある。スケートスタイルはもちろん、キャラクター、キャリアを含めてキャラが濃い。多方面で活躍する彼らを紹介しよう。

Pong (田内努)

全てはここから始まった。ポンくんと呼ばれ、主にフィルミングを担当する彼が夜中の通販番組でビデオカメラを買ったのがきっかけでCHATTY CHATTYが生まれたんだそう。CHATTY CHATTYの他に、スケーターを追ったドキュメンタリー企画『LOSS TIME WITH NIXON』などでもフィルマーを務めている。

彼のYouTubeチャンネル”chattychattyfilms“には『CHATTYCHATTY4.5 Teaser』と題したCHATTYメンバー勢揃いの動画が上がっているので、メンバー紹介を読む前に要チェック。

Yoshiaki Toeda(戸枝義明)

2020年現在も衰えることを知らず、天才の名を欲しいままにする戸枝義昭。正確なスイッチトリックが持ち味で、小柄にも関わらずハンマーからテクニカルなレッジトリックまでなんでもこなすオールラウンダー。『CHATTY CHATTY 4』ではトリを務めた。以下は名作『CHATTY CHATTY 3』から彼のパート。

余談だが、スケートがめちゃくちゃに上手い戸枝義昭でも演技は苦手なよう。以下の『SUGAR COOKIE』という動画で、彼の拙い演技を見ることができる。ファンは必見。

Zizow(北村浩一)

Zizowこと北村浩一は、CHATTY CHATTYメンバーの中で最年長。『LOSS TIME WITH NIXON』では、40歳を過ぎてもなおハードに滑り続ける彼の生き様を見ることができる。40を過ぎてレッジでノーズブラントができるスケーターは他にはいないだろう。

もはや語るまい

『LOSS TIME WITH NIXON EPISODE 6』のエピローグより

Soichiro Nakajima(中島壮一朗)

中島壮一朗は、湘南・茅ヶ崎発のスケートカンパニーIFOのボス。IFOとは”Identified Flying Object”(確認飛行物体)の略で、つまりスケートボードそのもののこと。スケートボードで飛んでいる姿をUFO(未確認飛行物体)と対比させるというお洒落なネーミングのブランド。佐川海斗を筆頭にイケイケの若手をサポートしているが、本人もアメリカの人気スケートメディア『411VM』のオープニングトリックに日本人で初めて選ばれたイケイケな過去を持つ。ヒールフリップとフェイキースタンスの滑りに定評がある。

Aoi Shimizu(清水葵)

清水葵は、戸枝義昭と並ぶCHATTYのスイッチマスター兼ムードメイカー。『CHATTY CHATTY 3』で披露した”鷹のような”スイッチフリップはカッコいいの一言に尽きる。

スケート業界の第一線から身を引いた現在は、デニムで達磨を作るアーティストとして活動している。第一線から退いたとはいえ、そのスケートスキルは健在で、CHATTYの新作『THE DAWN』でもスイッチヒールを披露している。

PROOM THE WORLDより

JUNYA FIRE(三枝純也)

JUNYA FIRE はCHATTY CHATTYのお笑い担当で、レイトフリップ系のトリックを得意とする。現在は自らDOBB DEEPというクルーを立ち上げ精力的に活動中。

池田幸太のYouTubeチャンネルのセットで行われたセットアップ紹介では、ほとんど他人からの貰い物でデッキが構成されていることが判明した。デッキの幅が太くなるトレンドの中、今もなお7.5inchの板に乗り続ける絶滅危惧種。

キツイっす。業界の皆さん、JUNYA FIRE困ってます。8.0からとか作っちゃってよう、そんな足のサイズでかくねえのによお、8.0なんか乗ってよお、お前無理すんなよまじで!7.5でいいんだよもう!

池田幸太のYouTubeチャンネル『【新企画】セットアップ紹介!』より

Hiryu Honjo(本庄飛龍)

ビタビタのキックフリップが持ち味の本庄飛龍。以下の動画『COLLAGE RIMIX』の冒頭に出てくるキックフリップを見ればその完成度の高さが分かるだろう。まさにお手本。

Yuya Ishikawa(石川雄也)

CHATTY CHATTYの映像内ではノーリーハードフリップの印象が強い石川雄也だが、一番の得意トリックはスイッチヒール。オーストラリア、タイ、スペインなどを渡り歩く旅人で、現地での滑りは彼のinstagramからチェックすることができる。

CHATTY CHATTYでのハードな滑りも良いが、YouTubeにアップされているスペイン・バルセロナで撮影されたフッテージがメロウで良い感じ。一度見たら旅に出たくなること間違いなし。

Seisho Hayashi(林正翔)

猛者揃いのCHATTY CHATTYの中でも、最も上手いと言われたのが林正翔。「2000年代初頭、日本で一番スケートボードが上手かった男」と評されることがあるにも関わらず、メディア嫌い故にスケートシーンの第一線から姿を消したまさに伝説のスケーター。『THE HISTORY OF CHATTY CHATTY』というCHATTY 10周年記念の映像があるのだが、なんせ上手すぎるので彼の映像はよく登場する。あの戸枝義昭に伝説と言われる正真正銘のリビングレジェンド。

正翔がやったトリックはほぼ全部伝説。

VHSMAG『id: no.004 Yoshiaki Toeda

Ryuhei Kitazume(北詰隆平)

湘南が生んだ驚異のステアマスター、北詰隆平。2012年のCHATTY CHATTY10周年記念の際に突如としてフルパートデビューした今一番アツいスケーター。2012年のフルパートの時点でかなりの実力だが、年を経るごとにそのスキルは磨かれ、今では他の追随を許さないレベルになっている。BGMとしてDiana Rossの『If We Hold On Together』のカバーを起用した彼の1stパートは音楽、滑り共に最高の作品といえる。

NikeSBのWAMONOのトリをはじめ、活躍が止まる所を知らない彼だが、得意分野はやっぱりステア。そんな彼の驚異的なステアスキルを分かりやすく収めたのが『BOUNTY SHOOTING』という以下の動画。幅広の12段ステアを前に誰も回しトリックに挑戦しない中、一人バックサイドフリップを半端ない完成度でメイクしている。ステアだけで魅せることができる数少ない存在。

他にも、CHATTYクルーのメンバーには村田鉄生やデッキカンパニー・JOYNTのボスである三枝博貴らがいる。

セガ前とCHATTY CHATTY

鵠沼海岸には「セガ前」と呼ばれるCHATTY CHATTYを象徴する場所がある。かつてセガのゲームセンターの向かいに位置したこのスポットで、CHATTY CHATTYは様々な伝説を残してきた。例えば、『CHATTY CHATTY 3』のOPは全てこのセガ前の映像で構成されている。1つのスポットだけで5分間の映像を作るには、CHATTYクルーのスキルの高さとスポットの完成度の高さのどちらも必要だ。どちらかが欠けていたら実現しなかっただろう。

CHATTY CHATTYによって有名になると、セガ前は長らく湘南のスケート自体のシンボルであり続けた。一つのスポットが地域のスケートそのものを象徴することは珍しい。その点で、バルセロナのMacbaに似ているかもしれない。

2014年の『CHATTY CHATTY4』から6年の沈黙を経て、2020年11月に新作『THE DAWN』がリリースされた。戸枝義昭と北詰隆平のWパートという構成で、驚くべきことに藤沢駅前のみのワンスポットで撮影されている。1つのスポットでテクニカルあり、ハンマーありというのはCHATTY CHATTYらしいといえるだろう。

HappyなCHATTY

CHATTY CHATTYのスケート以外の部分にもスポットを当ててみる。Pharrell Williamsの『Happy』に合わせて踊る動画のFUJISAWA verに、CHATTY CHATTYが出演している。清水葵のひょうきんさやCHATTYクルーの仲の良さが伝わる良いビデオ。あなたもHappyな気持ちになれるかもしれない。

最後に

CHATTY CHATTYが「ただのスケボーが上手い人たち」で終わらなかったのは、その活動を記録していたからに他ならない。

「記録する」ということに関して、フォトグラファーであるMURAKENが清水葵の写真と共に印象深い投稿をしている。世間がコロナ禍による自粛ムードに包まれていた4月の投稿だ。

日々の何気ない「スペシャル」な瞬間を、時折写真や動画に収めたりしながら、しっかり噛み締めて生きようと思わせてくれる。

表参道の交差点。2011年の地震が来る2日前の風景。今とは全然違う風景。

(中略)

この時は2日後に地震が来るだなんて、誰も思っていない。もちろん、2020年のことなんて、遠〜い未来の話。俺もそんな一人だった。

(中略)

葵の余裕ある動きに見とれているだけだったな。多分。今になって振り返ると、全てがスペシャル。こんな特別な瞬間を目撃していたんだ。この時はそんなこと思いもしなかったけど。

久しぶりにこの写真を見て、2020年の、今日の風景も、いつの日かめちゃくちゃスペシャルなものになるかも知れないなーって思った。色々暗いニュースばかりだけど、家にいても自分にとって特別な瞬間があるのかも知れない。

それは生活の中のちょっとした出来事かも知れないし、部屋の窓から見えるいつもの風景かも知れない。

何かはわからないけど、そういう今を、何となくでもちゃんと見ておきたいなって、ふと思った。(後略)

@murakenphoto のinstagram

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