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YouTube×スケートボードの先駆け”SOUNDBOARDING”

日本スケートボード界隈にYouTubeの波が押し寄せている。池田幸太や米坂淳之介といったトッププロのチャンネル開設、アツい若手をフックアップするLouis MoraやMDAスケーターの盛り上がりをはじめ、YouTube上のスケートボードコンテンツは枚挙に遑がない。しかし、10年以上も前からスケーターのリアルな姿を発信していたYouTubeチャンネル「SOUNDBOARDING(サウンドボーディング)」をご存知だろうか。今回は、そんなYouTubeスケートコンテンツの元祖であるSOUNDBOARDINGの魅力を語る。

目次

illustration by エノシマナオミ

大阪ローカルのリアルを映したSOUNDBOARDING

SOUNDBOARDING(サウンドボーディング)とは、「音楽とスケートの融合」をコンセプトに活動する大阪発のビデオプロダクション。ビデオプロダクションといっても、カメラマン兼スケーターである村田潤二氏(通称:ムラッチョ)が、彼の周りのスケーターの滑りと日常を記録する「超個人的Vlog」の色合いが強い。しかし、そこには「ただのVlog」と一言で片付けられないような、私たちを強く惹きつけるものがある。

こだわりのBGM

「音楽とスケートの融合」というコンセプトの通り、SOUNDBOARDINGの音楽へのこだわりは強い。良いスケートボードビデオというのは音を聴くためだけに何度も視てしまうものだが、SOUNDBOARDINGの映像はまさにその類のものといえよう。

何度も見ているうちに、ウィールの鳴り響く音、テールのヒット音、BGMが折り重なってできる新しい音楽が聞こえてくること間違いなし。百聞は一見にしかず。オススメ映像を貼っておくので、ぜひ見てみてほしい。

SOUNDBOARDINGのビデオを見ていると、どマイナーな耳触りのいい音楽と出会うことがある。代表的なものが大阪の古着屋LION MAGICの店長、通称 木村ちゃんが出演するビデオだ。レコード集めが大好きな木村ちゃんが、世界中から集めたBGMを紹介しながらターンテーブルに乗せてくれる。

Vlogのレベルを超えた映像作品

SOUNDBOARDINGをただのVlogとは一線を画す存在にしているのは、そのスケート映像のクオリティの高さだろう。それもそのはずで、SOUNDBOARDINGは2002年の『INSECTA』に始まり、『Happy Hour』『THA OSAKA VIBE』『La La La Osaka』『Osakan Holiday』と計5本のフルレングスビデオを制作しているのだ。関西のスケーターを中心に、アマチュアから浦友和のような著名なプロまでがそれぞれのスタイルを炸裂させていて見応え満点。現在ではその全てをYouTube上で無料視聴することができる。

中でもオススメなのが、『HAPPY HOUR』のトリを飾っている渡辺充のパート。キレのあるヒールフリップとバックヒールを武器に、180やスミスグラインドといったベーシックなトリックとメロウな音楽で構成された本パートは、見る人をノスタルジックな気持ちにさせる。

未だ後続の現れない独自企画

スケートボード界隈で著名なYouTuberが出てきた現在でも、他に類を見ないSOUNDBOARDINGならではの独自企画がある。「企画」というと、池田幸太のチャンネルで行われている「プロスケーターのセットアップ紹介」のようなものを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、SOUNDBOARDINGの企画は少々規模が大きいものが多い。その中から2つ、”KIXTRIX“と”山本リベンジ“を取り上げる。

KIXTRIX

KIXTRIXは、スケーター5人ずつで構成された2チームが、「制限時間は3時間」「カメラは回しっぱなし」「行動範囲は町全部」というルールのもと、与えられたミッションをこなして得られるポイントを競い合う企画。ミッションは「5段ステアを飛ぶ」といったものから、「テキーラを一気飲み」というものまで様々。ジャッジは大阪のレジェンド、VENIXこと野上竜也がビデオを見ながら行うのだが、関西人らしく笑えたらポイントが追加でもらえるシステムになっている。1回の開催が約1時間の見応えある企画となっている。

Yamamoto Revenge

山本リベンジは、SOUNDBOARDINGが6年間かけて完成させた企画だ。『Happy Hour』ではパートを持ったNaokazu Yamamoto(通称:山本)が、神戸のハネッコと呼ばれるスポットでノーリーブラインドサイドキックフリップをメイクするまでを追った企画。山本はGWしか大阪に帰ってこないため、失敗するとまた来年のチャレンジになるのだが、山本は5年連続で失敗し、6年目で悲願のメイクを成し遂げた。メイク後の盛り上がりを通して、仲間と楽しむスケートボードの魅力が伝わって来る。

未だ色褪せない”まっちゃん”のHow to

SOUNDBOARDINGを一躍有名にしたのは看板キャラクター「まっちゃん」こと松村雅樹の存在だ。彼抜きにしてSOUNDBOARDINGを語ることはできない。スケートの実力もさることながら、彼のおもしろくとっつきやすいしゃべくりが視聴者の心を掴み、SOUNDBOARDINGならではの”色”を形成していった。

そして、まっちゃんといえば有名なのがトリックのHow To。オーリーから180、ノーズスライド、トレフリップまで幅広いトリックのやり方をまっちゃんが冗談を交えながら説明するのだが、これほどまでに痒い所に手が届くHow To動画は2010年当時、ほとんどなかったといっていいだろう。

今でこそ様々なスケーターが親切なHow To動画をYouTubeにアップしているが、2010年頃は技のコツをだけを淡々と述べ、技を見せるといった形のHow Toがほとんどだった。つまり、SOUNDBOARDINGは10年も時代を先取りしていたと言える。

まっちゃんのHow Toの集大成はDVD『MACCHAN’S TRICK TIP SHOW』という形で発売されたのだが、これも中身の一部がYouTubeで無料公開されている。発売当時のTrailerにもまっちゃんエッセンスが満載。正直技の説明よりしゃべくりの方が長いが、それもまた味だろう。本人曰く「しゃべくりは全部一発撮り」らしい。

関西ローカルならではの味

大阪という土地柄は、SOUNDBOARDINGのアイデンティティの1つ。前述のまっちゃんを筆頭に、映像内では関西人ならではの軽快なジョークが飛び交う。

まっちゃん「(注意してきた警備員に対して)じゃあおっちゃん、また来るわ」

警備員「こんでええわ。もっとええ場所探しておいで」

まっちゃん「ええ場所なかったらまた来るわ。ありがとう!」

SOUNDBOARDING『2011.4.20 Skate Kobe with Macchan』より

ムラッチョが英語が堪能なため、SOUNDBOARDINGにはよく英語を話す外国人が登場する。その際、日本語は英語の字幕に、英語は関西弁の字幕に変換される。ひっそりと続いているこの工夫に遊び心が見え隠れする。

Sucks! It’s fucking waste, waste of time! Oh God, Fucking damn it!

〈最悪や!マジで時間の無駄や!〉

It’s so frustrating! What the fucking waste!

〈めちゃめちゃイラつく!なんもええことあらへん!〉

SOUNDBOARDING『Mike Rogers Day in the Life』より

SOUNDBOARDINGはグッズを作って販売していた時期がある。その中の1つ、「AHOKA TEE」もSOUNDBOARDINGを象徴するアイテムだろう。ハワイの挨拶「ALOHA」のハンドサインに大阪のツッコミ「アホか!」がかけられている。

最後に

SOUNDBOARDINGは現在Yahooクリエイターズプログラムに場所を移して活動しており、YouTube上で活発だったのは何年も前の話になる。

スケートボードはスケーターの生活と結びついていて、それは趣味やスポーツという枠組みから日常に溶け込んでいく。スケート系YouTuberが台頭する前から、スケートボードの「日常」という側面にスポットライトを当てていたからこそ、今なお色褪せないのかもしれない。

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