バーチャルバンド”Gorillaz”が消した現実と虚構の境界線
アニメや漫画の世界(フィクション)と現実はいつだって対照的だった。現実の世界の私たちは、つまらない現実を裏返したようなフィクションの世界に日々想いを馳せるが、外から眺めることしかできない。しかし、フィクションの世界には境界線をまたいで現実を侵食するヤツらがいる。それが架空の4人組バンド、Gorillazだ。現実とフィクションの境目を曖昧にするGorillazのおもしろさに迫る。
目次
Gorillaz(ゴリラズ)とは
GorillazとはイギリスのロックバンドBlurのフロントマン・Damon Albarn(デーモン・アルバーン)と漫画家・Jamie C Hewlett(ジェイミー・ヒューレット)の二人によって作られた架空の4人組バンド。
「架空の」と書いたように、Gorillazのメンバーの4人は実在の人物ではなく、全員アニメ風のキャラクターとして存在している。しかし、Gorillazのメンバーの最大の特徴は、実は彼らは”実際に生きている人間“という体で存在していることだ。そのため、Gorillazのメンバーにはそれぞれ国籍もあるし、彼らにまつわる設定やストーリーに出てくる地名も実際に存在するものが多い。
1998年、デーモン・アルバーンの妄想を形にするようにこの世に現れたGorillazは、そのコンセプトの斬新さだけでなく、音楽の実力でその存在感を増していった。全世界にたくさんのファンがいるGorillazには、架空のバンドにも関わらずこの世のどこかに彼らがいるんではないかと思わせる何かがある。今回はその”何か”の尻尾を追ってみよう。
個性あふれるGorillazのメンバー
Gorillazは、メンバーが「現実に存在している」かのように活動していることは既に述べたが、一人一人の設定は架空のバンドらしくぶっ飛んだものになっている。ぶっ飛んだ設定なのに、そこに出てくるサービス名や地名は実在するものだ。その現実と虚構のごちゃまぜ感が、GorillazをGorillazたらしめているのだろう。そんなメンバーの設定を、簡単に紹介する。
フロントマン”2D”
2D(本名:Stuart Pot)はGorillazのボーカルとキーボード担当。特徴は窪んだ両目と青い髪だが、実は両方とも後天的なもの。両目のくぼみはGorillazのリーダー、マードックの車による2度の事故でできたもの。そのせいで一時植物状態となるも、目覚めた時に音楽の才能に目覚め、マードックを命の恩人だと勘違いしているよう。だから、実は彼の2Dというあだ名は2 dents(2つのくぼみ)の略。
元々は茶色い髪をしていたのだが、11歳の時木から落ちて頭を強打したために茶色い髪が抜け落ちて青い髪に生え変わったようだ。木から落ちたせいで片頭痛持ちとなり、鎮痛剤を服用している。
イかれたリーダー”マードック”
マードック(Murdoc)はGorillazのリーダーで、楽器はベース担当。ギターも弾けるものの、Noodleに譲ってあげたみたい。先述の2Dのエピソードからも分かるように、Gorillazで一番頭がぶっ飛んでいる。彼は悪魔教の信奉者なのだが、それは彼の自己中心的な性格形成に一役買っているのかもしれない。
Gorillazの紅一点”Noodle”
Noodle(ヌードル)はゴリラズのギター担当。メンバー内唯一の女性で、大阪生まれの日本人。10歳の時に雑誌で見たGorillazギター募集の広告に応募し、FedExの航空便としてメンバーのもとに届けられた。名前の由来は彼女が初めて他メンバーに会った際に発した単語が「Noodle」だったからで、本名は不明。実は日本の極秘のスーパーソルジャー計画の唯一の生存者だったよう。初登場時は少女の姿だったが、今は立派な大人の女性。
普段は2Dがボーカルを務めているが、NoodleがボーカルのDAREという曲もある。Noodleのプライベートルームが映っているので、Noodleファンは要チェックな曲。
霊に取り憑かれた”ラッセル”
Russel(ラッセル)はGorillazのドラムス担当。と同時に、hiphop担当でもある。ラッセルは若い頃hiphopシーンで交友関係を持っていたが、その友人たちが通り魔の銃撃によって殺害されてしまい、殺害された友人たちはラッセルに憑依して時々ラップを披露する。ラッセルの目が白いのも取り憑かれていることに由来しているみたい。
そんなラッセルの友人の1人、Delが霊としてラップを披露している曲の一つがClint Eastwood。Gorillazが有名になったきっかけの一つだ。
ビジュアルと音で表現される世界観
Gorillazのメンバーにはそれぞれ詳細な設定があるし、彼らの結成からのストーリーも細かい設定がたくさんある。それらはインタビューで直接語られることもあれば、MVの中のアニメーションとして描かれることも。Gorillazの音楽が良いのは言わずもがなだが、耳だけでなく目も楽しませてくれるのがGorillazの魅力だろう。
初期Gorillazのダークな雰囲気が凝縮されているのが『Feel Good Inc』のMV。音楽としても映像としても完成度が高いので是非見てみてほしい。
Gorillazのストーリー性が押し出されているMVは『On Melancholy Hill』。
GorillazはオフィシャルサイトにてGorillazクイズを用意している。Gorillazにのストーリーに関するクイズがオフィシャルで出題されているので、気になる方は要チェック。
Gorillazが越えた現実と虚構の境
記事の最初でも述べた通り、Gorillazは架空のバンドだが、実際に存在するバンドかのような体でプロジェクトが進んでいく。もちろんGorillazのファンはGorillazが現実に存在しないことなんて分かっているのだが、「実はどこかにいるんじゃないか」と感じさせるような仕掛けがたくさんある。Gorillazがいかにして現実に侵食してきたかを見ていこう。
SNS
Gorillazの現実に侵攻する方法の一つがSNSだ。GorillazはYoutube, Twitter, Instagram, tiktokなど様々なSNSのアカウントを持っているが、メンバー個人もSNSアカウントを持っている。
例えば、マードックのTwitter。下のツイートは同じポーズのNoodleの画像を真似たもので、マーオックのお茶目な一面が垣間見える。
RIGHT, who bloody did this?! pic.twitter.com/GfAa9V8aph
— Murdoc Niccals (@MurdocGorillaz) August 17, 2018
GorillazのメンバーはメンバーによってやっているSNSがまちまち。マードックはTwitterをやっていたが、NoodleがやっているのはInstagram。
下はインスタグラムの、実際の場所を背景にNoodleが写っている投稿だがあまり違和感はない。現実世界にNoodleが溶け込んでいるような印象を受ける。
CM
Gorillazは現実世界のCMにも出演している。バンドがCMに起用されるといえば、曲がCMに使われるということが多い。確かに、2005年iPodのCMソングとしてGorillazの『Feel Good Inc』が使われたことはある。しかし、Gorillazは架空のバンドでありながら文字通りCMに「出演」もしている。
以下はGorillazが出演した時計メーカー、G-ShockのCM。GorillazのメンバーがG-Shockの耐久性を宇宙でテストするというミッションの最中に様々な事件に巻き込まれるというストーリー仕立てだ。
G-ShockのCMは、CMの中のエピソードを振り返ってのインタビュー動画も用意されている。Gorillazを代表して2DとNoodleがインタビューに答えているのだが、G-Shockの担当者が日本人なため、Noodleが日本語を英語に翻訳しながらインタビューが進む。架空のキャラクターながら、国籍などを意識したシチュエーション設定でGorillazに親近感が湧くこと間違いなし。
NoodleはPanasonic Jaguar Racingというレーシングチームのアンバサダーを務めていた。実際のレーシングカーからNoodleが降りてくるのを見たら、Noodleが実在してもいい気がしてくる。
ライブ
Gorillazはライブも特徴的だ。架空のキャラクターでありながら、その場に彼らが存在しているかのような演出がなされる。最近では初音ミクなどが架空キャラとして3Dライブを行ったが、以下のGorillazの3Dライブが行われたのは2010年。彼らがいかに先を行っていたかが分かるだろう。
ライブ風のMVもある。以下の動画は『Dirty Harry』のMVだが、スクリーンにキャラクターが順番に映し出される形で進んでいく。Gorillazのライブの雰囲気を想像するのにちょうど良いかもしれない。
Noodleの成長
Gorillazのデビューは2000年であり、実は結構歴史が深い。20年の歴史の中でGorillaz全体の絵柄のタッチも相当変わったのだが、一番変化が大きいのはNoodleの外見だろう。Gorillazデビュー当初小さい少女だったNoodleは、時が経つにつれ成長していった。
Noodleは成長しているが、2Dやラッセル、マードックらには絵柄以外大きな変化がない。現実世界の時間とリンクしているのかしていないのかよくわからない曖昧な部分も、Gorillazらしさといえるだろう。
Kong StudiosとMTV Cribs
Gorillazがかつて活動拠点としていたKong Studiosという施設がある(現在はStudio13に移転)。このKong Studiosは実はMTVのスターのお宅訪問番組、”MTV Cribs”で紹介された。MTV CribsではマードックがMTVカメラクルーを案内し、Kong Studios内にあるマードックのトレーラーハウスやNoodleのベッドルームを紹介した。こうしてGorillazはフィクショナルな存在として現実をジャックしていった。
Gorillazが続ける挑戦
これまで紹介してきた事例やそのコンセプトからも分かるように、Gorillazは常に新しいことに挑戦していくバンドだ。それがよく表れたGorillazからのメッセージがある。
基本的に、僕たちには1つだけルールがあって、それはルールを作らないこと、できる限り実験を繰り返し、いつでもあらゆるスタイルやジャンルをミックスし続けることこそ、僕らのやり方なんだ。
Qetic『【ゴリラズ来日間近】青柳文子、King Gnu、CHAI、フレデリックがゴリラズへインタビュー』
以下のルールを守れば間違いないよ!
その1:新しいことに挑戦し続けること
その2:どんなノイズも音符になる
その3:君が耳にする音すべてが音楽だ
その4:とにかく楽しめ
「新しいことに挑戦し続ける」Gorillazの試みは随所に見受けられるが、分かりやすいのが『Saturnz Barz (Spirit House)』のMVの360°バージョンだ。これはMVを360°回転して観ることができるという新しい試み。是非ぐるぐる動かしてご覧ください。
上記の『Saturnz Barz (Spirit House)』のMVだが、列車の中でGorillazのMVを観るという設定で始まる。そして実はこの列車にGorillazのメンバーが全員乗っている。本編以外でも360°見回す楽しさがある仕掛けを用意しているところにGorillazの遊び心を感じる。
Gorillaz 新プロジェクト”SONG MACHINE”
挑戦を続けるGorillazだが、2020年1月に新プロジェクト『Song Machine』を発表した。まだ全貌ははっきりしていないが、Gorillazが注目しているアーティスト達と共に楽曲を作ることにフィーチャーしたプロジェクトなのは間違いない。これからも現実に侵攻を続けるGorillazの今後から目が離せない。
初めての『Song Machine Episode 1』でFeaturingしたのはslowthaiだったが、彼はイギリスのイケイケ若手ラッパー。Gorillazが現在どのアーティストに注目しているか?というのが分かるのも『Song Machine』の醍醐味の一つだろう。
最後に
虚構、つまりフィクションの世界は夢に似ている。ということは、現実とフィクションの世界の境を曖昧にしていくGorillazは、私たちを夢の世界へと誘う睡眠薬に似ているのかもしれない。
今回はそんな「睡眠薬(Sleeping Powder)」の名前を冠したGorillazの曲を紹介して終わろうと思う。眠りにつく前にでも聞いてみてほしい。
Okay, last time.
Gorillaz『Sleeping Powder』MVより
〈いいか、最後に言うぜ〉
This is drugs.
〈これはドラッグだ。〉
This is your brain on drugs.
〈そしてこれはドラッグに侵されているお前の脳みそだよ。〉
Any questions?
〈他に何か質問はあるかい?〉