食のコンテンツ空間”ツカノマノフードコート”のおもしろさ
2019年10月-2020年2月に期間限定で出現する食のコンテンツ空間、ツカノマノフードコート。「食」というコンテンツを中心に毎週異なるテーマのイベントが行われ、曜日によってメニューもスタッフも変わる異色な空間には、そのコンセプトに惹かれた者たちが集まる。実店舗という形をとった”カルチャーの共同体”のおもしろさを探ってみる。
目次
ツカノマノフードコートとは
ツカノマノフードコートとは、古谷知華(ふるや ともか)がプロデュースする飲食店で、神泉に2019年10月から2020年2月のまさに”束の間”だけオープンしている。しかし、ツカノマノフードコートは「食のコンテンツ空間」と謳われているように、普通の飲食店とはそのコンセプトも集まる人々も異なる。
やりたいことをやれる、食の無法地帯です。食の解放区みたいな。
advanced『肩書を脱いで、本心をさらけ出す。ミレニアル世代の新たなコミュニティ』
ツカノマノフードコートでは毎日異なるシェフが厨房に立つため毎日メニューが変わり、週末には「フードジャーナリズム」「五感で味わう食体験」「性と食」など一風変わったテーマで食のフェスが開催される。
ツカノマって不思議で、“人とつながれる”のではなく、あくまで“食”が真ん中。つまりコンテンツが中心にあるんです。そこに人がついてる。
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そのため、ツカノマノフードコートには「食に対する挑戦をしたい料理人」と「新しい食を求める客」が集まるのだが、これは言い換えれば「食への挑戦」というカルチャーに人が集まっているということだ。ここにツカノマノフードコートの面白さがある。
ツカノマノフードコートの刹那性
ツカノマノフードコートの特徴の一つがその刹那性だ。ツカノマノフードコートはその名の通り「束の間」のサービスだが、サービス以外も「束の間」なもので溢れている。
束の間の場所
ツカノマノフードコートは、2019年7月にリリースされた空間マッチングサービスRELABELが管理する空きビルを利用している。ツカノマノフードコートが入っているビルはサービスのクローズ後に取り壊しが決まっているため、ツカノマノフードコートの跡には何も残らない。
全てが終わった後、場所もろとも消え去ってしまうというのは、陳暁夏代とSeihoがプロデュースしたイベント「そのとうり特別展【NOBODY】」とどこか似ている。NOBODYは4階建てのビル一棟を丸ごと貸し切って行われた、1日限りのおでん×和菓子×おむすび×音楽のイベント。NOBODYが開催されたビルもリノベーションが決まっており、イべント終了後ビルは跡形もなく消え去ったそうだ。
ツカノマノフードコートも、NOBODYも立つ鳥跡を濁さず、と言わんばかりに場所ごと解体される。それはある種、夢に似ているような気がする。寝ている間は鮮明に覚えているのに、起きると全く思い出せない。夢を見てたのかどうかも忘れてしまう。ツカノマノフードコートを訪れているとき、私たちは夢を見ているのかもしれない。
束の間のメンバー
ツカノマノフードコートの「束の間」とは、場所だけでなくメンバーにも当てはまる。
運営メンバーもこの企画のために「ツカノマ(束の間)」集まった、1992年〜93年生まれのミレニアルズです。
TABI LABO『渋谷に期間限定オープン!大人のための「ツカノマノフードコート」』
元々一緒に何かをやっていたメンバーではなく、ツカノマノフードコートのために、それをやりたいメンバーが集結した。一時的ではあるものの、全員が同じ方向に熱量を傾けているからこそ、魅力的な空間となっているのだろう。
ツカノマは4人で始めました。自分が全体を統括するプロデューサーで、溝端くんに声をかけ、デザイナーの女の子に声をかけ、PRに強い子を入れて、というふうに。知り合いの伝手で人選は適当だったけれど、思想が近しいメンバーが集まりました。仕事におけるプロフェッショナル度は把握しないまま、人間性だけで選んだんです(笑)
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プロデューサーの古谷知華はインタビューにて「思想が近しいメンバーが集まった」と語っている。おもしろいものの裏には、必ずハッキリとした思想がある。思想なしにおもしろいものなんて生まれないよね。
束の間の場所に、束の間のメンバー。そんな束の間な空間に、そこにしかないコンテンツや出会いを求めて人が集まってくる。情報が束の間に消費されてしまう世の中なのに、束の間で消費されない価値を求めた人々が、束の間しか存在しない空間に集まる。なんだか不思議なものだ。
ツカノマノフードコートは「食」のZINE
ツカノマノフードコートのキーワードの一つに「やりたいことをやる」というものがある。普通の飲食店なら収益化は切実な問題だが、ツカノマノフードコートは収益化よりもむしろ「やりたいことをやる」ことを優先する。
例えば、アメリカのポートランドでは小さな製本所とかに、ZINE(編集部注、小規模の自費出版物)をつくるための場所が充実しているんですよ。ツカノマもイメージとしては、ZINEをつくる製本所のような感じ。もしくは食のZINEですね。ここで、好きなフードをつくって出して、それが売れても売れなくても別にいいんです。
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ZINEというのは制作者の世界観を自由に表現した出版物のことだ。ZINEは多くの場合、それをより多くの人に届けることよりも、表現することそのものに価値が置かれている。つまり、ZINEを作ることそれ自体が目的であり、価値があるということ。
ツカノマノフードコートには「食への挑戦」をしたい人たちが集まって運営している。やりたいことをやるために自主的に人が集うツカノマノフードコートも、ZINE同様に存在そのものに価値があるのだろう。
ツカノマノフードコートが目指す”食のレーベル”
4ヶ月間だけ開かれるツカノマノフードコート だが、その目指すところはなんだったのだろう。インタビューにて、プロデューサーの古谷知華はツカノマノフードコート の展望を「食のレーベル」だと語る。
ツカノマノフードコード(以下、ツカノマ)は、場所にコミュニティがつくのではなく、コンテンツにコミュニティがついているんだと思います。ゆくゆくはツカノマを音楽のレーベルのように、食のレーベルにしたい。レーベル化すれば、違う場所に出ても、新しい地域の人たちが入ってきたりして、コミュニティができていくので。
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食のレーベルというのはとてもおもしろい考え方だ。ツカノマノフードコートが力を持てば、「ツカノマノフードコートが選んだ」シェフや料理、コンテンツという点に価値が乗る。食のキュレーションとも言えるかもしれない。キュレーションに価値が乗るという点で、音楽とイラストで独自の世界観を築くAviencloudを彷彿とさせる。
キュレーションに価値が乗るというのは、価値観や思想に価値が乗るということを意味する。そしてそうした価値観や思想に共感する人々が集まり、その価値観をいっそう強固にしていくのだろう。ツカノマノフードコート の今後から目が離せない。
最後に
ツカノマノフードコート のおもしろさについて書いてきたが、古谷知華との対談の中で、陳暁夏代がそのおもしろさの核心に迫る発言をしている。
結局、自腹でやりたいことやっている奴が一番いいアウトプットを生むんじゃないかなと思いますね。クオリティさえ担保できれば。それこそクリエイターの責任感だと思いますが。自分がやりたいと思うことは、別の誰かのやりたいこと。だから、先陣を切ってやりたいことをやれる人が、新しい現象やトレンドをつくるんです。
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自分がやりたいことを、「これが一番おもしろいんだ」というプライドを持って、その価値を信じて動き続ける。そうしたプライドがおもしろいコンテンツを生む。そして、そんなプライドがにじみ出ているところが、ツカノマノフードコートのおもしろさの一つなのだと思う。世の中が愛とプライドで満たされたらいいのにね。