AMVと、進化し深化するネットコミュニティ

AMVの進化の背景には、それを当初から支えてきたコミュニティが存在する。そしてネットの発達、YouTubeの登場によってコミュニティは拡大する一方、激しい分散化も進んでいる。目まぐるしいスピードで発達(と呼べるかは分からない)していくAMVとそのコミュニティの海に飛び込む。

目次

Illustration by エノシマナオミ

AMVの現在地

まずは、こちらの動画を見て欲しい。画質の良さ、圧倒的なクオリティの編集まで含め本家の映像を凌駕する勢いである。現在のAMVの一つの到達点を示す動画と言って良いだろう。

この動画は、書き出し作業だけで10時間かかっていることが概要欄で述べられているが、相当の労力を要するものであったことは想像に難くない。そして驚くべきは、この動画が無料でダウンロード出来ること、そして使っているエフェクトやソフトなどが懇切丁寧に説明されていることである。どうしてこれほどまでの動画を、手法まで含め簡単に共有してしまうのだろうか。

ここにAMVが育んできたコミュニティの肝が存在する。

AMV前史

我々がその存在を知るようになる以前から、ローカルなコミュニティでAMVの種は着々と芽を出しており、それはAMV好きによる、AMVのためのコミュニティであった。過去に記事で、YouTube登場以降のhiphopとAMVの結びつきについて触れたが、これはトラップやlo-fi hiphopなどの音楽が好きな、言わば「よそ者」がAMVの拡大と共にに参入してきたが故に生まれた現象として取れる。彼らの参入以前から、大切に保存されAMVを成長させてきたコミュニティがあった。

AMVの創世記にまで遡ってみよう。

AMVエディターによるコミュニティは、80年代後半から90年にかけてアメリカで既に存在していた。その黎明期は、少人数の「通」が集まるカルト的なメディアであり、AMVエディターたちはみんな顔見知りだったという。インターネットの進化と共にAMVコミュニティが世界を股にかけて広がりを見せるようになっていく。規模の拡大と共に様々なコンペティションがオンライン上、オフライン上問わず各地で開催されるようになる。

「基本的には、お互いに楽しんで、何か利益を得ようとは考えていない。みんなAMVを売ろうなんて思っていないし。そういうことをする人はいない。基本的にはそれを提供して楽しんで見るだけのもの。コミュニティ的なムラ意識のようなもの。」

伊藤瑞子『アニメミュージックビデオを創作するピア・コミュニティ』2014年

AMVエディターの一人はこう話す。AMVコミュニティは、参加することで初めて成立するものであった。AMVを制作し、コンペに参加し、作ったAMVを仲間内でお互いに披露しあい語り合うこと、それ自体が目的であったのだ。コンペで高い評価を得たエディターは有名エディターとなりファンがつくようになるが、そこにお金は発生せず、コミュニティ内の人気者であるという称号を得ることになる。

また、AMVはまだ知られてないアニメを仲間に宣伝するためのツールでもあった。

「ファン動画とファンフィクションは最終的に、オリジナルの作品を広く世に知れ渡らせる、お金のかからない広告みたいなものになりそう。人々はファンの作品のために用いるオリジナルな作品を愛する傾向にあるので、露出させることには好意的です。」

伊藤瑞子『アニメミュージックビデオを創作するピア・コミュニティ』2014年

AMV誕生当初からつい最近まで、アニメ(特に日本のアニメ)は海外では入手困難であった。AMVクリエイターたちは、入手しにくいカルトメディアを伝え歩く伝播者であり、それらを自分の形に落とし込む翻訳者であったという。ただそれは、アニメが入手困難なカルトメディアであったことを前提とし、あくまでそのカルトメディアに興味を持つ「仲間たち」に向けられていたことは、現在と大きく異なる点だ。

現存するAMVコミュニティ

こうした歴史の流れを汲みながら今も存在しているコミュニティサイトを紹介したい。

ANIMEMUSICVIDEOS.ORG

https://www.animemusicvideos.org/home/home.php

その黎明期から、AMV界を牽引し続けた、言わばAMVコミュニティのメッカとなるサイトがANIMEMUSICVIDEOS.ORGである。

AMV JAPAN

https://amv-japan.org

AMV JAPANは、現在日本で最大のAMVコミュニティサイトだ。

これらのサイトの特徴として挙げられるのが、AMVを紹介する側面も強いが、AMV制作者向けの記事や掲示板が非常に多い事だ。初めてAMVに興味を持った人にあまり優しくない構成になっているし、そもそもYouTube上でAMVを見ている分にはサイトの存在すら知ることはない。

それもやはり、視聴することではなく、参加する(自分でAMVを作ったり、コンペに足を運んだりする)ことが求められる当初からの流れを汲んでいるからであろう。世界中にこうしたコミュニティサイトが未だ存在しており、同時に今も様々なコンペティションが開催されている。

AMVコミュニティ形成の変化

しかし、こうした当初から続くコミュニティの形成に変化が生まれている。そして、そこに最も大きな影響を与えているのがYouTubeであることに疑いの余地はない。コミュニティ内にいないと辿り着けなかったはずのAMVは、誰もが触れることが出来るものになっていき、その事実はコミュニティの存在を揺るがす。

 現在のAMVエディターには、Discordのチャンネルを用意している人が非常に多い。Discordとはゲーマー向けのテキストチャットアプリであり、自分を中心とするコミュニティを簡単に形成できるプラットフォームとして機能している。各人が作成できるコミュニティ内に数多くの掲示板が存在しており、そこでは雑談からオススメの音楽や漫画、イラストが紹介されたり、AMVの作り方が話されたりしている。

Discord ロゴ

また、自分のサイトを作って自身がデザインした服を売ったり、ko-fiというWEB上の投げ銭サービスを使って資金を獲得するようになる者も現れ始める。

AMVエディター、Ape Trvp Visuals 猿が展開する洋服
https://teespring.com/stores/unsatisfied-visuals

Discordの登場や、Web上の多様なサービス展開が既存のコミュニティの中でやりくりする必要をなくしたということだ。かつてのようにコンペティションで名前を轟かす必要はなくなり、YouTube上で集客を行えば個人で自立した運営が出来るようになった。そして視聴者は、そのコミュニティに実際に参加せずとも個人的に応援の意思を表示できるようになった。こうしてコミュニティの乱立が始まる。

AMVコミュニティ乱立時代

二次創作における健全なコミュニティとして、その役割を担っていた当初のAMVコミュニティ。しかし、YouTubeと、コミュニティの乱立により今はその力を当初より確実に失いつつある。

今は、一度クオリティの高いAMVに巡り会えば、Youtubeの関連動画からそれに類似するAMVにたどり着くことは簡単であるし、お気入りのエディターがいれば彼らに個人的な支援を送ることもできる。そして、彼らが運営するDiscordやサイトへと飛べば、そこにどのような人が集まって来ているのかを覗き、会話する事だってできる。

当初のAMVエディターたちは、あくまで自分たちが二次創作であることをわきまえ、一次創作者へのリスペクトを持った中で最大限の楽しみ方を拡大してきた。そんな彼らと比べると、二次創作を発端としてそれをコミュニティへの還元ではなく、個人の拡大につなげるこの新しい異分子たちは、AMVが育んできた文化への礼節さを欠くのかもしれない。ただ、その背景にはAMV創作期当初とは時代が違うことが確実にある。

若い世代は、アニメもAMVも同じスマートフォンで見る。一次創作も二次創作も同じ一つの画面上で、もしかしたら同じYouTubeで見られる現在、二次創作としてどのような取り組みが出来るのかはそれほど重要視されていない。もはや一次創作か二次創作かにこだわる必要がない時代が来ている。それがオリジナルであるかは視聴者の気に留まらない。

そう考えた時に、個人の収益化まで目論む後発のやり方は、決して不自然ではないと言える。ただ同時に、AMVを大切に育んできた者たちのやるせない溜め息が聞こえてくるのも、また事実であろう。

その頃、地下で

アニメがまだカルトメディアであった時代に、AMVコミュニティは形成された。一次創作にすら辿り着けない時代の中では二次創作、それ自体がアングラな遊びであった。そしてAMVクリエイターたちには、自分たちこそがそれを伝え広める者であるという自負と仲間意識が存在していた。ネットの発達と共にコミュニティは拡大していき、しかし更なるネットの影響で今やそのコミュニティも喪失し、個人が乱立する時代へと突入した。こうした現代にもカルトメディア、そしてそれが生み出すコミュニティは存在し得るのだろうか。

そこで紹介したいのが、laincahnである。

lainchanに関しては、詳しく解説されているサイト(Mal d’archive)があるのでそちらを参照してみて欲しい。

lainchan.org

lainchanは匿名画像掲示板であるが、そこで扱われるトピックは、プログラミングやネットセキュリティ暗号化、ドラッグ、音楽、文学(文学的な本も紹介されているが、銃の作り方や忍術の書なども共有されている。)など…。言わば、無法地帯である。とても楽しいものとは言い難い。しかし、このサイトを覗いて見えるのは、決して荒れ果て殺伐とした閉塞の地ではない。参加者の節度は保たれており、むしろどこかあたたかい空気感を感じてしまう一面すらある。

そして”lainchan”という名前は『serial experiments lain』という1998年に公開され、現在もカルト的人気を誇るアニメに由来しており、主人公である少女、”玲音”がサイトのアイコンとして用いられている。

かつてAMVが拡大するにあたり、『ドラゴンボールZ』とリンキンパークを使ったAMVがバカにされる時代があったという。当時の10代の少年に人気な2つのものを結びつけた、通称リンキンパークZは、AMV界の拡大とAMVの量産によって発生した質の低下を示す代名詞であった。

「もっと色々なアニメがあるのに(…)そのときに一番はやっているものだけをAMVにするべきではないと思う。昔のアニメをみんなに見てもらいたいと思っているし、価値を伝えたい」

伊藤瑞子『アニメミュージックビデオを創作するピア・コミュニティ』2014年

AMV界の古株の一人はこう述べる。AMVの広がりに対し、特にそれまでAMV界のコアであった熟練エディターたちは、まだ一般には知られていない、奥が深いアニメを重視していたという。そんな中、AMVでも稀に用いられる、決して有名とは言えない古いアニメ「lain」をアイコンにしたこのサイトが2014年に立ち上がった。これは、拡大し増殖するコミュニティに対して、lainchanが持つ一つのカウンター的要素を物語っているだろう。現在もネットの地下で新しいコミュニティが生まれ、確実に動いている事実を見逃すことは出来ない。

そして、こうしたアンダーグラウンドのどこかアナーキーさを持ったコミュニティが、入手困難なアニメの二次創作それ自体がアングラな遊びであったAMV創世記にも存在したと考えるのは想像に容易だ。

もしかしたらもっと深いコミュニティも存在するのかもしれない。いや、おそらく存在する。さらに、驚くべきはそのスピード感である。途轍もない速さで発散と収束を繰り返し、同時に深化も行うネット上のコミュニティはAMVに限った話ではないはずだ。好奇心を刺激される反面、それを見つめ過ぎると目眩がする。潜るのはこの辺までにしておこう。

参考文献

宮台真司[監修] 辻泉/岡部大介/伊藤瑞子[編](2014)『オタク的想像力のリミットー〈歴史・空間・交流〉から問う』筑摩書房

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