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日本スケートボード界の革命児、吉岡賢人

スケートボードにおいて”スタイル”とはスケートスタイルのことだけでなく、”ライフスタイル”、つまり生き様までを含めて”スタイル”と呼ぶ場合がある。そして、吉岡賢人は間違いなく日本で一番イケてる”スタイル”のスケーターの1人だろう。今をときめくadidas skateboardingのライダーであり、appleやPockettPatrolなど独自のプロジェクトを抱える傍ら、自らのブランド”kento hardware”をローンチした吉岡賢人。誰よりもスケートボードを愛し、誰よりも精力的に活動する彼の魅力を余すことなく紹介する。

目次

illustration by エノシマナオミ

吉岡賢人の多面的魅力

吉岡賢人と聞いて、「独特な滑りをするスケーター」という印象を持っている人が多いかもしれない。たしかに、ノーコンプライやボディーバリアルを駆使したとても正統派とは言えないひねくれた滑りも彼の魅力の一つだ。しかし、彼はスケートの技術以外の面でもたくさんの魅力を持っている。日本のスケートボードの未来を担う吉岡賢人の魅力を追っていこう。

雑誌『Ollie 2018年9月号』より

溢れるスケートボード愛

スケーターはほぼ全員スケートボードが大好きだし、スポンサーがついて成功している人たちはより一層その思いが強い、というのに疑問を挟む余地はないだろう。しかし、吉岡賢人のスケートボード愛は並みのそれではない。音楽メディア『lute』とストリート雑誌『ollie』のコラボ企画インタビュー動画にて、吉岡賢人の並外れたスケートボード愛が語られている。地元・愛媛から東京に出てきた当時の生活を語っているが、その全てがスケートボードを中心に回っている。

スケートパークに朝から行って、閉まるまで滑って、そのままストリート行って、朝まで滑って、次の日滑るパークに行って、寝て起きて、また開いたらそこで滑るみたいな生活をしたり、風呂入りたくなったら友達ん家行って入って荷物だけとってまた行く、みたいな。

15歳なんで補導されたりとかもして、親に連絡行って怒られたりしたんすけど、それでもスケートボードが好きで

lute × Ollie コラボ企画『SKATE MIND #02 KENTO YOSHIOKA』より

また、吉岡賢人は2017年4月に開校した「バンタンデザイン研究所高等部 スケートボード&デザイン専攻」に、一期生として入学している。生活の全てをスケートボードに捧げるだけでなく、「スケートボードの高校」といったスケートボード業界の新しい風も積極的に取り入れる彼が、スケートボードのメインストリームを形作って行くのは極めて自然なことなのかもしれない。彼から溢れるスケートボード愛が、多くのスケーターの心を掴む。

「スケボーの高校だったらちょっと行きてえな」と思って、行ってます。めちゃくちゃ楽しいっす。

lute × Ollie コラボ企画『SKATE MIND #02 KENTO YOSHIOKA』よ

唯一無二のスケートスタイル

冒頭でも述べたが、吉岡賢人は「独特な滑りをするスケーター」の代表格だ。彼の代名詞とも言えるノーコンプライをはじめ、ボンレス、スラッピー、エアウォーク、ハンドフリップ、ボディーバリアル、プレッシャーフリップ、レイトフリップなどなど、オールドスクールと呼ばれる昔ながらのトリックや珍しいトリックを見事にストリートスケートと融合させている。

オールドなトリックを違和感なくストリートスケートに取り入れているだけでもすごいのだが、吉岡賢人はそれらに自分なりのアレンジを加えてネクストレベルのトリックへと引き上げている。まさにスケートボードの「温故知新」を体現している存在だと言えるだろう。そんな吉岡賢人の集大成とも言えるパートがTransworldから公開された。吉岡賢人らしさが爆発しており、見ないという選択肢はない。

独特なスケートスタイルで知られる吉岡賢人だが、そのスケートスタイルはしっかりとした基礎力の上に成り立っている。そのため、オーリーなどのシンプルな、いわゆる「ストリートスケート」っぽいトリックもめちゃくちゃにうまい。加えて、シンプルなトリックだけでなくswitch f/s 180 frontfoot imposssibleやダブルトレフリップといった複雑なトリックも普通にこなす。独特なスタイルを貫きながらも、「スタイル逃げ」をしないその姿勢は全スケーターの鑑と言えるだろう。

『apple』で見せた新時代のスケートビデオ

吉岡賢人の手がけるプロジェクトの一つに『apple』がある。これはスケートビデオの撮影、編集、公開、拡散までをiPhoneのみで一貫して行うという試みだ。

appleは2017年の1月から作り始めた僕の映像作品なんですけど、全部iPhoneで撮影してて、全部iPhoneで編集してて、iPhoneから公開、拡散っていう iPhoneで全部やってるやつです。

lute × Ollie コラボ企画『SKATE MIND #02 KENTO YOSHIOKA』より

元来スケートビデオの撮影には高価な機材が必要で、”フィルマー”と呼ばれるスケートビデオの撮影に精通している人に撮ってもらうのが主流だった。スマートフォンで綺麗な映像が撮れるようになった現在でも、「SNSにあげる映像はスマートフォンで十分だが、ちゃんとした映像はちゃんとした機材で専門の人が作るものだ」という暗黙の了解がある。

吉岡賢人はそんな暗黙の了解を”apple”というプロジェクトで壊しにかかる。スマートフォンがあれば簡単に撮影できる今は、誰しもがフィルマーであり被写体にもなり得る時代だ。その証拠に、appleの映像を見ていても、「スマートフォンで撮ったからクオリティが低い」なんてことは全くない。誰もが表現者になれる時代の到来をスケートボードにも感じる。吉岡賢人はトリックだけでなく、スケートボードの文化すらもネクストレベルへと押し上げている存在だと言えるだろう。

そんな”apple”第一弾には戸倉 万汰廊本橋 瞭本郷 真太郎といった次世代を代表する勢いのある若手が出演している。2017年に始まった比較的新しいプロジェクトだが、現時点で既に”apple 7″まで公開されている。要チェックだ。

スケートボード×アイデンティティ

スケートボードの滑りにはスケーター自身の味が出る。そしてその味とはそのスケーターの身体的特徴やパーソナリティだけでなく、どういった場所で滑ってきたか、どういった人たちと滑ってきたか等スケーター自身のアイデンティティ全部を包括して反映していると言える。吉岡賢人はそうしたスケーターの”アイデンティティ”に目を向ける。

PokettPatrol

吉岡賢人は『apple』以外にもプロジェクトを手がけている。それが『PokettPatrol』(ポケットパトロール)だ。VimeoのScrew video bomというアカウントから視聴することができる。Pokett Patrolは彼の周囲の頑張っているスケーターにスポットを当て、ストリートの映像を作るというプロジェクトだ。自分の周りから少しずつスケートシーンを盛り上げていこうという熱量が伝わる。そして、Pokett Patrolの最大の特徴としてそのBGMに日本語の曲が使われていることが挙げられる。

日本の全国各地の人たちを集めたビデオ企画みたいな感じなんで、日本の古い歌謡曲とか日本語の曲を使うようにしてますね。みんながみんなトラップを使ってたら、どこの国のやつがどこからアップしたとかわかんないじゃないですか。

だから俺は日本の場所で撮って、日本語の曲を使って、こいつらは日本のやつらなんだなって分かるようにするように、心がけてます。

lute × Ollie コラボ企画『SKATE MIND #02 KENTO YOSHIOKA』より

スケートボードのメッカであるアメリカと比べ、日本のスケートシーンは歴史が浅い。そうした背景からスケートボード界隈では常にU.S.に憧れ、U.S.の真似をする文化があった。しかし、昨今Street Leagueでの堀米雄斗西村碧莉の活躍に代表されるように、日本のスケートボードのレベルは成熟し、U.S.を追いかけているだけの時代は終わったといえる。そんな中、吉岡賢人は”日本の”スケーターとして、「今、この時代に日本で滑っている」というアイデンティティを大切にしている。スケーターは元来自分の地域コミュニティ、すなわち「ローカル」を大切にするが、吉岡賢人は”日本のスケートシーン”そのものをローカルだと捉えている印象を受ける。

余談だが、日本語の曲を使ったビデオといえば、2002年の舩橋春貴のパートを思い出す。SISTER KAYAの『やさしい雨』という曲をBGMに使っており、日本で初めてJASRACを通したスケートビデオのようだ。ノスタルジックな気分に浸れるいいビデオなので要チェック。

WelcomeからEvisenへの移籍

吉岡賢人はかつてアメリカの個性派デッキブランドWelcome skateboardsからスポンサーを受けていたが、Welcomeとの契約を解消して大阪発のデッキブランドEvisen skateboardsに移籍した。通常、日本のブランドからのサポートを足がかりに海外の有名ブランドからのスポンサーを狙いに行くものだが、吉岡賢人はその真逆の海外から日本という動きを見せた。その理由に関して、吉岡賢人はこう述べている。

appleやpokett patrolなど日本から世界に発信する目的で活動していたこともあり、Evisenでプロになって世界に日本のスケートスタイルを発信したいという気持ちが、日に日に強くなっていきました。

雑誌『Ollie2019年 10月号』内のコラム”DOBUNEZUMI”より

吉岡賢人の活動の根底には常に「日本から世界へ」の考え方がある。そして彼が日本にこだわる理由は彼が日本人で、日本に住んでいて、日本でスケートをしているからに他ならない。自らのアイデンティティに誇りを持ち、自分の活動によってそのアイデンティティをさらに魅力的なものにしていこうとする吉岡賢人の姿勢には見習うべきものがある。

そんな彼の考えを象徴するかのように、2020年10月、Eviseが新しい吉岡賢人のパートを公開したのだが、その動画はThrasher MagazineのYouTubeアカウントにアップされるという形でお披露目された。EvisenからThrasherへ、日本から海外へ。彼の活躍は止まるところを知らない。

Evisenのディレクターである南勝己と吉岡賢人のインタビュー動画では、吉岡賢人のスケートボード観の片鱗を味わうことができる。ぜひ見てみてほしい。

独特なファッションとShake Junzi

吉岡賢人はスケートスタイルも独特だが、ファッションセンスも独特だ。いつも奇抜な格好をしているわけではないが、奇抜な髪型、髪色、服装をしている時もあり、そうした一風変わったファッションへの抵抗は感じられない。これは吉岡賢人の元々のセンスによるところもあるのだろうが、彼が仲良くしているスケーターの1人であるShake Junziの影響が大きいことは間違いないだろう。

Shake Junziも吉岡賢人同様ノーコンプライやハンドフリップを多用するクリエイティブなスケートスタイルを持っており、VHS MAGのidにて吉岡賢人は「影響を受けたスケーター」としてShake Junziの名前を挙げている。

Maison Shake Junziより

Shake Junziはグリップテープブランド、Shake Juntが好きすぎるあまりそのあだ名がつき、ついには自らShake Junziというグリップテープを作り出した。そうしたクリエイティビティと行動力のある人材に刺激を受けて、吉岡賢人は新しいものを生み出し続けるのだろう。そんな吉岡賢人とShake Junziが過ごす日常はSKATEBOARDING PLUSの THE DAYS INNという企画で紹介されている。

独自のブランド”kento hardware”

日本のスケートシーンにおいて活発に活動する吉岡賢人だが、ついに2019年6月に独自のブランド、kento hardwareをローンチした。ライダーとして有名になり、自分のブランドを立ち上げるというのは多くのスケーターが目指すキャリアパスだが、それを弱冠20歳にして成し遂げたのだから驚きを隠せない。kento hardwareは早くもGirls Don’t Cry”などで注目を集めるグラフィックアーティスト、VERDYとコラボをしたり、渋谷モディの巨大ディスプレイにCMを流して渋谷をジャックしたりしている。吉岡賢人とkento hardwareの今後の動きから目を離せない。

最後に

色々と吉岡賢人の魅力について書いてきたが、彼の最大の魅力は誰よりもスケートボードに対してまっすぐなところにある。

スケートボード自体をカテゴライズするのはとても難しい。カルチャーだという人もいれば、アートだという人も、スポーツだという人もいる。なぜサッカーはスポーツなのに、スケートボードは意見が別れるのか。それはスケートボードに正解がないからだ。その正解のなさがスケートボードがスケートボードたる所以であり、最大の魅力だと言える。そして、吉岡賢人はそんな正解のないスケートボードと全スケーターに対して愛のある言葉を放つ。

みんな違ってみんないいし。スケボーは

lute × Ollie コラボ企画『SKATE MIND #02 KENTO YOSHIOKA』より

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