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夜の東京を駆る謎多きスケートクルー、KP TOKYO

夜と街はスケーターの大好物だが、東京の夜を代表するスケートボードクルーといえばKP TOKYOで異論はないだろう。しかし、その知名度と人気とは裏腹にKP TOKYOの正体は謎に包まれている。今、一番イケてる反社会派スケートボードクルー、KP TOKYOのカッコよさの正体に迫る。

目次

Illustration by エノシマナオミ

KP TOKYO “Straight Up Underground”

KP TOKYOは名前の通り東京を中心に活動するスケートボードクルー。そのキャッチコピー、”Straight Up Underground”(正真正銘のアングラ)が指し示す通り、社会全体に喧嘩を売ったようなギリギリ(?)アウトな映像作品が多い。そもそもKPってどういう意味?って人も多いと思うが、名前の由来はK○sh吸ってPushだったりKamikaze P○theadsだったりと様々なようだ。彼らの映像作品の名前にも『Kusogaki Project(東京糞餓鬼計画)』や『KIYOTSUKERO PORISU』など頭文字がK.P.になっているものが多い。つまり、いろんな意味があるってこと。

KP TOKYOのメンバー

謎の多いKP TOKYOだが映像作品を見るとちゃんと名前がクレジットされている。KP TOKYOの映像作品に出てくる主要メンバーとしては、高野太内田競柳勇志小野正也量産藤田剛シエロ・ケラー、アーロン久保、ポン…らがいるが、つまり何が言いたいかっていうと色々な人が映像に出てるってこと。現在Polarやadidasのライダーを務める三本木心や横浜のlacquerで店長を務める菅野聖来もメンバーとして出演している。そもそも、「スケートクルーのメンバー」の定義自体が”クルーの映像に出てる人”だったりするので、「誰々がメンバーで、誰々はメンバーじゃない…」とか考えることにあまり意味はないだろう。

とはいえ、それはあなたが知りたい答えじゃないと思う。スケートスタイルを中心に主なメンバーを3人だけ紹介しよう。

Futoshi Takano(高野太)

安定感のあるオーリーとウォールライド、ウォーリーを駆使して東京の街全体をスケートスポットに変えてしまう高野太。KP TOKYO初のフルレングス作品『Kusogaki Project(東京糞餓鬼計画)』で見せたオーリー×B/Sウォールライドは必見。板を当て込んだシャッターの音も相まって超カッコいい。後半はキックフリップ×ウォールライドに進化していて”ヤバい”以外コメントが思いつかない。彼の全力のプッシュとパワースライドのけたたましいウィールの音は夜の東京を駆るKP TOKYOを象徴していると言えるだろう。余談だが、『Kusogaki Project(東京糞餓鬼計画)』のDVDの定価は420円。この意味がわかるあなたは、KP TOKYOのかっこよさにしびれること間違いなし。

Tsuyoshi Uchida(内田競)

KP TOKYOのイケメン担当、内田競。彼もバネを感じる強烈なオーリーを持ち、オーリーの際に両手を前に突き出すスタイルはカッコいいの一言に尽きる。あまりトリッキーな技はしないが、オーリーやキックフリップ、5050や5-0などシンプルなトリックでしっかり魅せてくるあたりに「男は黙ってオーリー」という気概を感じる。Tsuyoshi繋がりで藤田剛が友情出演しているVHSMAGのPickUpパートをぜひ見てみてほしい。

また、ルックスとファッションセンスを生かしてモデルとしても活躍している。

Tsuyoshi Uchida 雑誌『Ollie2019年 10月号』より

Yushi Yanagi(柳勇志)

KP TOKYOの中では珍しくノーコンプライやヒッピージャンプ、ボンレスといったトリッキーな技を得意とする。とはいえトリッキーな技だけというわけではなく、映像の節々で見せるクイックなキックフリップは美しい。KP TOKYOのプロダクト全般のクリエイティブを担当しているようで、KP TOKYOの世界観の一端を担っている。

KP TOKYOのメンバーはJR田町駅付近のスケートパーク、通称TMC(夕凪橋際遊び場)でよく見かける。行けば会えるかもしれない。

圧倒的ストリートスキル

KP TOKYOの魅力はとても奥が深く、一言で語り切れるものではないが、それらすべてを支える根幹にあるのはやはり彼らのストリートスケートスキルの高さだ。壁、レッジ、レール、ポールなど街中にあるすべてのものを駆使してストリートを楽しむ彼らのストリートスキルには脱帽する。渋谷サイゼリヤの前で撮影された高野太のF/Sスミスグラインドから始まる『KIYOTSUKERO PORISU – KP Sreet Boomers 18』は、KP TOKYOでは珍しくカラーの映像であり”東京ストリート”を感じやすい作品だと言えるだろう。渋谷を訪れた際は撮影されたスポットを見に行ってみることをオススメする。「ヤベえ」と思うこと間違いなしだ。

ミステリアス×カオス

KP TOKYOと他のスケートクルーの最大の違いはやはりそのミステリアスな雰囲気にある。Googleで調べてもあまり情報が出てこないばかりか、SNSも本名で検索しても出てこないアカウントだったり、非公開アカウントだったりする。そもそも、つい最近までインターネットでスケートボードの情報が自由に拾えるようなことはなかった。本来、情報流通の中心がローカルな口コミだったりスケートショップだったりした”スケートボード”の世界をKP TOKYOに感じる。

そんな彼らにつきものなのがストリートでのカオスだ。夜の東京を舞台に繰り広げられる騒動をまとめた映像がある。タイトルは『nuthin but a KP thang』で、「KPな事だけ」という意味だ。ここでのKPとはどう意味だろう。内田競のidに習うと”Kuzu People”とかだろうか。

なんにせよ、KP TOKYOのカオスとそのミステリアスさが彼らのイメージを「得体の知れないもの」にしているのは間違いない。その得体の知れなさが私たちを惹きつけるのだろう。

“街を駆ける”カッコよさ

スケートボードは技ありきで楽しいしカッコいいというのは議論の余地のないところだとは思うが、夜風に当たりながらプッシュするのもそれはそれで気持ち良いし、上手い人のプッシュはそれだけでカッコいいんである。

KP TOKYOの映像は小難しいトリックの応酬というよりも、街中を駆けながらトリックをする、という構成だ。多くのスケートボードの映像が「いかに難易度が高い技を、いかに難易度が高い場所で、いかにスタイリッシュにやるか」にこだわりすぎている気がする。それに対し、あくまで「滑る」中に技を入れていくというスタイルのKP TOKYOは、スケートボードの根底にある「滑ること自体の気持ち良さ、カッコよさ」を体現しているように感じる。

ゆっくり、優雅に街中を滑ることのカッコよさをMiles Silvasが”One Stop“で示したとすると、KP TOKYOは街中を激しく駆け抜けるカッコよさを示していると言えるだろう。まあ、滑ること自体のかっこよさって言っても、スキルないと出せないカッコよさなのだけれど。そんな街中を滑る映像から始まるのがRuff Shit – Kp Tokyo Street Boomers 14』だ。

ビジュアルで表現される”思想”

KP TOKYOの作品はメッセージ性の強いものが多い。単に彼らの滑りを楽しむものというよりも、そのメッセージも込みで作品であると言えるだろう。KP TOKYOが2018年7月に公開した映像作品の名前がWorking Class』であることからもその思想の強さがうかがえる。しかし、彼らが伝えたいメッセージは言葉で明確に表現されているわけではない。

映像を通して感じる彼らのメッセージは「世の中どっかおかしくねえ?」というものだ。確かに、ストリートでスケートをしていると世の不条理に直面することは多い。住宅街でスケートして騒音で警察にしょっぴかれるならまだ分かるが、警察がスケーターを捕まえる理由の多くは「スケートボードをするべきではない場所で、スケートボードをしている」ただそれだけだ。法律違反でもなく、誰に迷惑をかけるわけでもない場所でやっていたとしても、「スケボー=危ない、捕まえるもの」という慣習により警察は動くのである。KP TOKYOはそれを世の中の「システムエラー」として描く。

この問題の根幹にあるのは、日本に長らく根付く「同調圧力」と「排他性」であると感じる。みんなが「同じ」価値観を持っていて、その価値観から外れた知らないものは「排除」することをよしとする文化が日本にはある。スケートボードが日本で疎んじられる理由は日本にスケートボードがカルチャーとして根付いていないからだ。言い換えると、「よく知らないもの」だから、ただそれだけだ。古くから「和を以て貴しとなす」なんて言葉があるけど、同じもの以外を排除して生まれる偽りの和なんていらないよね。

KP TOKYOは国際色の強さでも知られる。異なるバックグラウンド、アイデンティティを持ったもの同士が「スケートボード」を通してコミュニティを作り上げる。これこそ本当の「和」な気がする。

KP TOKYOはそんな偽りの和のもとに成り立っている社会の駒になることを否定する。KP TOKYOの『From the sewers of – LINDA – の下水道から』という作品は、「人々は、朝9時から夕方5時まで使われてる。そして、夕方5時から夜9時までは俺の時間だ」「お前ら、それが幸せか?」と問いかけるところから始まる。そして、彼らのメッセージはごくシンプルな一言でまとめられている。

“Fuck The System”

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